キオクとキロクとミチシルベ

気になるコトのキオクとキロク

ファッションの原体験 その2

(前回からの続き)

 

その友人のオシャレな部屋には服はもちろん、オシャレな雑貨やインテリアであふれていた。そして本棚には月刊のファッション雑誌が綺麗に整理されて並べられていた。

ともすればその友人は自身のこだわりが詰まった自分の部屋を見せて自慢したかったのかもしれない。その思惑は見事にハマることになる。私をはじめ招かれた数人の友人は口々に「すげー」「おしゃれ」「さすが」とその部屋の主を称賛し羨望のまなざしを送ることとなった。

そこからは主を中心にファッション談義。部屋にあった当時のファッション誌「Boon」や「Cool Trance」などを広げながら、その部屋にある友人が持っているアイテムの解説を興味津々で聞いていた。
「このLevi'sは47モデルっていって・・・」
「これはNikeのAirMax95で・・・」
「次に狙ってるスニーカーは・・・」
分からないなりにも必死に話題に取り残されないように「へぇ~」「なるほど」と盛り上がっていた。

 

一通りファッション談義も落ち着き、誰からともなく「そろそろ帰るか」という雰囲気になり帰り支度をしていた時、その瞬間は突然訪れた。

 

「トニーも、もう少しオシャレに気を使った方が良いと思うよ」

 

その友人の一言を皮切りに、一緒にいた他の友人も「うんうん」「俺もそう思う」「だよね」と続く。次第に「その場で一番ダサいのは私」という雰囲気が充満していき顔が熱くなっていく。
早く帰りたい一心で私は「おぅ」とだけ返事をした。冷静を装ってはいたものの、13歳にショックを与えるには十分の破壊力だった。


その友人はもちろん、周りの友人にも悪気があった訳ではない。なんせその時の私は逆立ちしてもオシャレなんて言える格好ではなかった。
近所のスーパーで買った英語プリントのTシャツに何の変哲もないジーンズ。足元は普段から学校に履いて行っている白いスニーカー。
もちろんシルエットなんて概念もなく、サイズは「キツくなく快適」を基準に無頓着に選んだものだった。友人の言葉通りオシャレに気を使ってはいなかった。

でもお気に入りだったんだ。
もちろんオシャレだとは思っていなかった。でもダサいとも思っていなかった。
この服を着てることが恥ずかしい事だとは思ってもいなかった。

 

自宅に帰った私は部屋着に着替えて、数時間前までお気に入りだったTシャツを
捨てた。

 

(つづく)